異文化コミュニケーション研究所
    Intercultural Communication Institute

 
第35回 異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ


タイトル

(シリーズ:多文化共生の未来とジレンマ)
 多文化共生の未来とジレンマ
−21世紀日本と「移民」受入れ−

講  師

和田純 (本学教授・当研究所所長)

司  会

松井佳子 (本学教授・当研究所副所長)

日  時

2004年6月29日(火) 17:30〜19:30

場  所

ミレニアムハウス

会場整理費

 300円(当日払い)
 講師紹介
 慶應義塾大学大学院(経済学研究科)修了。在日コリアンの就職差別裁判に関わった後、国際交流基金に勤務。ロンドン事務所長、ニューヨーク日米センター所長などを経て、96年にシンクタンクの(財)日本国際交流センターに転職。99年から小渕内閣の内閣官房で「21世紀日本の構想」懇談会担当室長を務め、2001年より現職。現在も、(財)日本国際交流センターの首席研究員/研究企画主幹を兼務。主な共編著に『日本の東アジア構想』『楠田実日記』『21世紀日本の構想』『官から民へのパワーシフト』『日本・米国・中国』『民族差別』など。
 講演会報告 (奥島美夏、異文化コミュニケーション研究所)

 日本の人口は2年後から減少し始め、今世紀末には半減すると予測されている。この激減によって根本的な変革を迫られる日本社会には未来像の設計、すなわち人口減に従って縮小していく「小さな日本」か、あるいは移民を受け入れて経済大国を維持する「大きな日本」をめざすのか、といった「100年の計」が求められている。いずれにせよ多民族化・多文化化が避けがたい現状で、日本は外国人が住んでみたいと思う魅力を備え、受け入れにどこまで門戸を開き、快適な定住地となっているのだろうか。このような問題意識の下に、講師は移民をめぐる政策の史的動向と将来の展望について解説した。
 日本は外国からの労働者受け入れに対して基本的に門戸を開放していない。社会の対応能力の未熟さを考えると、この政策はある程度まで妥当性をもっているといわざるを得ない面もあるが、同時に、現実には多くの外国人労働者がすでに日本に存在(厚生労働省推計で約76万人)し、非正規就労者も多いことや、周辺諸国からの労働者送出圧力もさらに高まっていくこと、さらに国内労働力の不足が深刻度を深めつつある現実などとも向き合う必要がある。そうした中、1991年の出入国管理法改正では、特別永住者資格を新設することで在日コリアンの法的地位をより安定させたり、日系人の移住を受け入れに門戸を開いたりというように、政府としても「外国人受け入れ」に向けて徐々に舵取りの方向性を変えつつあるといえるが、最大の課題は外国人受け入れに向けての総合政策がないことだ。関係省庁間の調整機能が充分でないだけでなく、国と自治体のずれも大きく、生身の人間を社会の新構成員として受け入れ、ともに努力して共存を実現していくため総合政策=移民政策が欠如している。
 1999年、当時の小渕首相の下に「21世紀日本の構想」懇談会が設けられ、「移民政策の確立」が提言された。講師はこの取りまとめにあたったが、外国人をどう受け入れるかだけでなく、外国人が日本で暮らしたい、日本に住みたいと思うような「魅力ある日本の創出」まで含めた長期的で総合的な戦略を持つことが、移民政策の鍵となる。日本はいよいよ、こうした岐路に差し掛かっていると認識すべきである。

【参考】
「21世紀日本の構想」懇談会(編)・河合隼雄(監修)2000『日本のフロンティアは日本の中にある――自立と協治で築く新世紀』講談社


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