後期(火・3)時間割表へ
    社会思想史II
  現代の社会思想:個人と社会
AOYAMA HARUKI 
青山 治城
2単位 
1〜4 
後期 
50403600

 愛は社会の構成原理たりうるか。ヨーロッパの近代社会思想は、「個人」の権利や利益を中心にすえて、それができるだけ多く実現する社会を理想として掲げてきた。そうした個人主義的思想に対して、根本的批判を提起しているのが、近年の「ポスト・モダニスト」や「共同体主義」であり、「フェミニスト」たちである。あるいは、そもそも「社会」とはそうした「個人」としての人間からなるのではないという根本的疑問を提起する社会学理論もある。
 本講義では、前期でのいわば「愛の思想史」を踏まえて、主に現代の非個人主義的な社会思想を取り上げたい。近代のある哲学者は、結婚を「男女の間における生殖器の相互利用契約」と定義していた。まさにこれこそ、個人主義的、啓蒙主義的近代社会思想の典型であるが、多くの人はグロテスクに感じるのではないか。だが同時に、個人の意志を無視して愛が強制されたり押しつけられたりするのもまたいかがわしい。結婚における「愛」は男女で異なるのだろうか。また郷土「愛」や祖国「愛」、知への「愛」と性愛とはどのような関係にあるのだろうか。
 近代的社会思想の主流を占めるリベラリズムの伝統に対するいくつかの批判的論点を、「愛」と「性」の観点から捉えなおしたい。

評価方法: 毎回の小レポートと最終レポートによる総合評価。

テキスト名: 山脇直司ヨーロッパ社会思想史東京大学出版会1992

参考文献: 今道友信愛について講談社1972
M.フーコー性の歴史I・II・III新潮社1986
J,デリダ友愛のポリティクス1・2みすず書房2003

   愛を主題にした社会思想史の本はあまりないが、「社会思想史」と題されたものはたくさんあるので、そうしたものも参考にしてもらいたい。授業の最初に各回の内容に関する参考文献リストを提示する。本講義のテキストは、その都度配布する。参考文献としてあげたものには、初心者には少々難しいものもあるが、こうした分析もあることを知ってもらいたいもの。

注意事項: 各回の授業計画はあくまで予定であり、変更される場合もある。

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1. はじめに:コールバーグとギリガン
正義の倫理とケアの倫理
2. カント:現代リベラリズムの原点
合理主義、啓蒙主義
3. ヘーゲル;現代コミュニタリアンの原点
愛による世界/運命との和解:家族・社会・国家
4. マルキ・ド・サド
徹底した共和主義:悪徳の栄え、閨房哲学
5. A.コント:近代「社会学」の祖
「社会学」と「社会科学」
6. M.ウェーバー;ヨーロッパの特殊性
合理主義と神秘主義
7. G.フロイト:無意識の発見
性欲の発達と文化
8. F.ニーチェ:ニヒリズム
仏教的秩序思想
9. M.フーコー:生の権力
性の考古学
10. M.メルロ・ポンティ
「間身体性としての社会」論
11. リベラリズム(自由主義)とコミュニタリアニズム(共同体論)
テーラー(自己の起源)、サンデル(自我の社会的構築論)、マッキンタイヤー(美徳なき時代における共生の原理)
12. N.ルーマン:社会システム論
情念としての愛
13. フェミニズム:社会構築主義
コーネル/バトラー:家族(異性愛)と社会(同性愛)の関係
14. ヌスバウム/デリダ:新しい民主主義
愛国主義とコスモポリタニズム