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社会思想史I 愛の秩序 |
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明治以前の日本には「社会」という言葉はなく、これに近いことばとしては娑婆、世間、仲間、世の中などがあった。現代でも本当に日本に「社会」が存立しているかどうか、必ずしも明らかではない。しかし、これは何も日本だけの問題とは限らない。「社会」というのは society の訳語として定着したものであるが、英語にもcommunity、association、commonwealth、republic 等々、society の同義語があり、「社会」という言葉は多様な意味を含んでいる。一般に「社会思想史」というと近代以降が対象となるが、近代に(再)発見されたと言われる「社会」の意味を考えるためには、近代以前にも目を配る必要がある。 政治的社会思想としては、現在なお近代ヨーロッパの「社会契約論」が中心的意味を有しているが、そこでの問題は、主に「国家」の正当性を論証することであり、議論の中心は、もっぱら「正しい秩序」としての「正義」論にあった。だが、人間は政治的正義や経済的利害だけで「社会」を作るものではない。恋愛や友愛もまた、ある種の「社会」を形成する。特に昨今のネオ・リベラリズム(新自由主義)の蔓延に対して、特にその市場原理主義とも言うべき風潮に対して、それを批判する視点から愛や信頼の意義を説く論者も現れている。現在、もっぱら嘲笑的批判の対象となっている鳩山首相の「友愛」主義も、フランス革命における3つの理念(自由・平等・友愛)を考え直すためには重要なものである。自由主義と平等主義の対立であった東西冷戦の終わった現在、これまでほとんど注目されてこなかった第3の理念としての「友愛」が何を意味するのかを検討し直す必要があるからである。 本講では、古代から近代前期までの「愛」の概念に注目しつつ、その多様性とそれがもつ社会秩序形成力について考えたい(後期には近代以降現代までを扱う予定)。英語の表現にも love をはじめとして、affection、attachment 等、多様な「愛の形」がある。古代にまで遡ると、エロース、アガペー、フィリア、カリタスといった言葉が使い分けられていたことが分かる。「正義の秩序」との対比を念頭に起きながら、これら「愛の秩序」について考えていきたい。 |
評価方法: | 出席率と理解度を測るために毎回提出のリアクション・ペーパーと、最後に提出するレポートによって判定する。両者の評価割合は、原則としてそれぞれ50%。 |
テキスト名: | 山脇直司『ヨーロッパ社会思想史』東京大学出版会、1992年 |
参考文献: |
金子晴勇『愛の思想史』知泉書館、2003年 水田洋『社会思想少史』ミネルヴァ書房、2001年 |
各回の内容に関連するテキストは、そのつど提示する。少なくともそのうち数編はじっくり読んで最後のレポートに生かしてもらいたい。参考文献は、数少ない「愛の思想史」であり、適宜参照する予定。『社会思想史』のテキストは、さまざまな観点から書かれたものが多数ある。この授業では特定のテキストは指定せず、独自の観点で構成していく予定だが、各自、どのようなテキストがあるか、見ておくことが望ましい。山脇氏のテキストは、古代から現代までを網羅的に扱ったものである。 |
注意事項: | 時代にそって見ていく予定だが、授業計画はあくまで予定であり、変更される場合もありうる。 |
授業計画―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― |
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