後期(金・2)時間割表へ
    民族と文化I(b)A
  「チベット問題の原点・過程・現実
MATSUMOTO TAKAAKI 
松本 高明
2単位 
1〜4 
後期 
50302401

 現在「中華民族の大家庭」の一員とされているチベットは、元来その環境から独自の文明的発展を遂げてきた。しかし「禁断の地」と言われる世界であっても、ひとり世界のシステム変容とは無関係には存在することはできなかった。
 そのことは、単に「生活習慣や宗教等の文化的否定があったから」という現象的な側面にだけ着目していたら、民族問題を根本から理解することが難しいことを示している。59年に表面化したチベットの民族問題は、その淵源をたどって学んでいくことで、現在の世界中で勃発する民族問題に通底する考え方を理解する手掛かりを得ることができる事例でもある。
 本講座では「チベットから21世紀の民族問題を考える」として、まず民族問題を理解するための基礎理論を学んでもらい、その後具体的な事例研究として現代チベットの状況をお話しする予定である。
 なお本講座「民族と文化I(b)」は、説明や講義内での進め方に若干の違いは出るものの、内容的にはI(b)AとI(b)Bは同じ趣旨に於いて進めるものとする。

評価方法: 出席及び課題レポート(2〜3回)による。比率は50:50

参考文献: 山口瑞鳳チベット(上・下)東大出版会1988
D.スネルグローブ/H.リチャードソンチベット文化史春秋社1998
チレ・チュジャチベット 歴史と文化東方書店1999
Tsepon W.B.Shakabpa, Tibet:A Political History, Yale Univ. Press, 1967
A.T.グルンフェルド現代チベットの歩み東方書店1994
西川一三秘境西域八年の潜行中公文庫1990
松本高明チベット問題と中国アジア政経学会1996

  講義資料・参考文献については、講義において適宜配布・紹介するものとする。

注意事項: 講義内容は前期に比べて高度になるので、前期に開講する民族I(a)を受講しておくことをお薦めする。また理論にも踏み込むので、その実証例となる歴史的事項も年表や参考文献などで確認するなどの積極性を期待する。
配付すべき資料等がある場合は、moodle上にて配付する。講義理解に役立てて欲しい。

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1. 序:チベット入門

 (序-1) チベットの地理と文化
  「中央部チベット」と「周辺部チベット」
    チベットという一つの多元的世界にアプローチする
2.  (序-2) チベット内政事情
  「僧俗一元制という政教一致の政治制度」
    ダライラマという存在が生まれるまで 〔(a)の復習〕
3.  (序-3) チベット-中国関係の歴史
  「伝統的関係の形成と崩壊」
    相互の補完関係の存在とその背景 〔(a)の復習〕
    舅甥?それとも檀家? 歴史的偶然が生んだ「力の真空」
4. 1:チベット「民族蜂起」とは?

 (1-1) 1951年5月23日まで
  「進軍から『チベットの平和的解放に関する17ヶ条協定』調印へ」
    遅きに失した防衛策と国際政治に対する無知、そして…
5.  (1-2) 初期的反動の形成
  「解放軍進駐と『人民会議』事件」
    ダライ14世の登場と初期的な摩擦
6.  (1-3) 「中央部」と中国政治
  「度重なる政治改革と中国政治の急進化」
    ダライの権力逓減と中国本土での政治的急進化の圧力
7.  (1-4) チベットの火薬庫「周辺部」
  「行政区画による不幸と集団化運動」
    民族理論の急進化とチベット族地域の『民主改革』
8.  (1-5) 暴力の転移と分水嶺へ
  「ゲリラ活動の全域的組織とダライ亡命」
    「National Uprising」と亡命、そしてその余波
9. 2:「民族」とは何ぞや?

 (2-1) 近代的概念としての「民族」
  「『民族意識』の形成とその識別」
    民族は絶対的基準か? また客観的識別が可能か?
    何によって生まれた概念か?
10.  (2-2) 国民国家とは?
  「"nation"を基本とする西欧的国際社会体系」
    チベットの地位について考えてみる
    「国家」という言葉でさえ違う。アジアでも「国民国家」
    上からの統合・・近代国民国家体系を創出と民族問題
11. 3:チベットの「いま」を理解するために

 (3-1) 60年代における「民主化競争」
  「チベット人の近代世界との邂逅と、自治区成立」
    内なる自治区成立、外なる難民社会建設という二つの民主
12.  (3-2) 7〜80年代の「文革からの解放」
  「急進的民族政策の放棄と、どん底からの再出発」
    パンチェン解放、チベット工作座談会という政治的軟化
13.  (3-3) 民族運動の再燃と難民社会
  「87年の暴動と88年ストラスブール提案、直接対話」
    対立路線のコントロールと「新しい世代」
    指導者依存の直接対話、パンチェン問題
14.  (3-4) 統合の進展と摩擦の顕在化
  「交通網整備と市場的統合、変わるチベット人意識」
    経済由来の格差問題、環境破壊、文化破壊
    ビジネスチャンスを求めるチベット人
15. 結:構造としての潮流と現象としての摩擦
  「西部大開発と暴動」
    国策としての国内統一市場形成が与えるチベットへの影響
    国際政治としてのチベット問題、そして中国政治としての
    チベット問題の連関を理解しよう