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    研究演習-26
  レトリックによって創出されるナショナル・アイデンティティ
USUI NAOTO 
臼井 直人
4単位 
3〜4 
通年 
60500126

昨今の日本では「ナショナル・アイデンティティ」を復興させようとする動きが各所で見られる。教育基本法改正案における「愛国心」問題や憲法改正における議論の中にも日本の独自性や日本文化の保護を強調する意見があることなどがその例になろう。また2001年9月11日以降のアメリカでも、愛国心を高揚させるための言説やシンボルが、メディアを通じて日々流されている。
今年度のこのゼミではこの「国」「ナショナル・カルチャー」「ナショナル・アイデンティティ」といったコンセプトに焦点をあて、これらはレトリックによって捏造された虚構であるという立場でこれらの言説を批判的に検証していく。「国民」のイメージがどのように創成されていくか、そのプロセスの中にはどのようなレトリカルな「仕掛け」があるのか、「個」として私たち一人一人がどのように「日本人」に収斂されていくのか、その結果どのような「問題」が起きているのか、そしてこれらの「アイデンティティをもった主体」を生産しようとする動機は何であるのかを様々な文献を読み、議論し考えていきたい。このことは外語大の学生である諸君一人一人が、「外」の世界とどのように向き合うべきなのかを考えるよいきっかけになると考える。
授業の進め方
1. 毎回定められたトピックについて討議する。前もって各自テキストを読み、自分の考えをクラスレポートとしてまとめておくこと。それを隔週で提出する。
2. 毎回受講者の一人がリーダーとなり、そのテーマについてリサーチした内容についてクラスディスカッションを進める。

評価方法: 1.(前後期)クラスレポート及びディスカッションリーダー(30%)
2.(前期)「ゼミ論計画」または「卒業論文計画」(20%)
3.(学年末)「ゼミ論」または「卒業論文」(50%)

テキスト名: 追って指示する

注意事項: * コミュニケーション論、レトリカル・コミュニケーション論を履修済みであることが望ましい。

* 履修者全員にゼミ論執筆が課せられる。(卒論を書く4年生はそれをもってゼミ論に替える。)内容は必ずしもゼミで扱った内容である必要はない。「コミュニケーション研究」であればそのテーマは各自で選択できる。ただし担当教員とよく話し合って最終的なテーマを決定すること。

* 4年次からの履修も認める。ただし卒業論文執筆に際してはかなり集中して執筆に取りかかることが必要となる。

*初回の授業で、このゼミでどのような内容のゼミ論や卒論が書きたいかについて、簡単に書いてもらう。 その内容によっては受講を許可しない場合がある。また受講希望者多数の場合には人数調整することがある。したがって受講希望者は第一回目の授業に必ず参加すること。

* 後期の履修中止は原則として認めない。

なお、上記の内容は2007年度のゼミにおけるものである。ほぼ同様のテーマで開講する予定であるが、各回に扱う内容、評価方法については変更の可能性がある。以上の変更点は授業の最初の回に説明する。
上記の講義概要は暫定的なものである。詳細については授業の最初に説明する。

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1. オリエンテーション、リサーチの進め方
2. 「ナショナル・アイデンティティ」を創出するレトリック
3. 「国民国家」と帝国主義:18〜19世紀の世界史を振り返る
4. 伝統的な「ナショナリズム創出装置」
5. メディアとナショナリズム
6. 恐怖のレトリック:チョムスキー「合意の捏造(Manufacturing Consent)」
7. 恐怖におびえるアメリカ:マイケル・ムーア「華氏9/11」
8. 「日本人」って誰? 「日本文化」って何?
9. 「異文化コミュニケーション」の功罪:「日本人」と「アメリカ人」の二項対立
10. 言語と文化の固有性:サピア・ウォーフ仮説、「『いき』の構造」、「菊と刀」
11. ゼミ論・卒論計画口頭発表
12. ゼミ論・卒論計画口頭発表
13. 伝統の創出1:「国宝」「武士道」
14. 伝統の創出2:「国語」の創出と言語政策、日本の多言語性
15. 伝統の復古2:教育基本法改正と「新しい公共の創出」
16. 伝統の復古3:中曽根康弘の憲法改正試案における「日本の国家像の明記」
17. 学習指導要領と人種差別:「韓国人の日本人度を測る??」
18. 言語・文化の境界と国境:「反英語帝国主義」の言説
19. 「外国語大学」と「日本人のアイデンティティ」
20. 「帝国主義経済」と「グローバリゼーション経済」:新しい「富国」政策
21. 英語の使える「日本人」の育成:我々にとって「コミュニケーション能力」とは何か
22. ゼミ論・卒論口頭発表
23. ゼミ論・卒論口頭発表