比較思想とは、二度の世界大戦への反省から、異文化理解の可能性を模索するために始まった比較的新しい学問である。 異文化の対立は、国同士で対立し合う戦争、それより小さい集団で対立し合う企業ややくざの抗争、個人同士で対立し合う日常的なケンカなどのあらゆる闘争状態や、他国の文化よりも自国の文化を正しいと思う傾向、ソース派としょう油派、犬派と猫派の相互無理解など、様々なレベルで考えることができるが、これらはいずれも、自分と相手の主張や立場をともに文化として認め始めたならば、もはや対立ではなくなるだろう。そしてさらに、両者が異なるということがむしろ魅力となるならば、相手と自分の共通点と相違点をめぐる対話が始まることになるだろう。 比較するcompareとは、com「一緒に」par「同じ状態に」置くことであり、自分と異質な他者を優劣などによって排他的に扱うのではなく、全て一つの「文化」として認め、対等なものとして見る基本的な態度に立つことである。従って、比較思想は自らの文化を絶対視することなく「相対化」する営みでもあることになる。 この授業では、古代ギリシアからの西洋における比較思想的な営みから現代における学問としての比較思想の成立までの歴史を辿ると同時に、文化を比較することの価値を考察し、現代的な課題についても議論していきたい。
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