前期(月・4)時間割表へ
    憲法IC
  基本的人権
AOYAMA HARUKI 
青山 治城
2単位 
1〜4 
前期 
30002903

 憲法 Constitution の意義を理解することが最大の課題。最近は憲法改正論議も喧しい。その中には現状に合わせて改正することが当然であるかのように論じる者もある。だが、果たして憲法は、他の法律同様、その時々の多数派の意向に添って容易に改正されるべきものなのだろうか。改正の内容は全く自由でよいのだろうか。これらは、一般に「憲法改正限界論」として論じられてきた問題である。憲法の改正は必要な場合ももちろんあるが、日本における議論では、ヨーロッパに発し、現行日本国憲法にまで及んでいる近代立憲主義の伝統が十分に理解されていない怖れがある。
 近代憲法の原型をなすフランス人権宣言によれば、「権利の保障と権力の分立が確立されていない所に憲法はない」。それ以後、憲法には権利の保障を定める部分(人権論)と国家機関の種類と権限を定める部分(統治機構論)の二つの部分が不可欠とされてきた。したがって、人権と国家(機関)が憲法を考える場合の2大テーマとなる。いずれが欠けても憲法全体を学んだことにはならないのである。
 本講義では、このうち「人権」に焦点を当て、近代憲法にとってなぜこれが重要なのか、憲法がなぜ他の法令に優越した国家の「最高法規」としての地位をもつのか、その理由を考える。

評価方法:  原則として期末に行う筆記試験(ノートと六法持ち込み可)によるが、任意提出のレポートの点数も加味する。毎回リアクション・ペーパーを課してその都度の理解度を測るとともに、これを出席点とする。目安として筆記試験60%、出席点40%の割合で評価する。

テキスト名: 初宿正典他いちばんやさしい憲法入門(第3版)有斐閣2005

参考文献: 鶴見俊輔他英文対訳 日本国憲法を読む柏書房1993
水島朝穂改憲論を診る法律文化社2005

   参考文献にあげてある『英文対訳 日本国憲法を読む』を用意すれば憲法条文は参照できるが、他の法令を参照することもあるので、小型六法を用意すること。この本は、英語を学ぶ本学学生には特に参照してもらいたい。また、近年の改憲論についても新たに参考文献をあげておいたので、適宜参照してもらいたい。

注意事項:  授業計画の順序、内容は予定であり、変更される場合がある。

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1. はじめに:
ビデオ(「私が憲法に向き合うとき」)を見ながら、日本の「社会」における憲法の意味を考える。日本国憲法改正の論議が高まり、一部には憲法の廃止を説く者もある昨今、改めて近代憲法の基本的な意味を捉え直す必要性について理解を深める。
2. 近代憲法と人権:
近代立憲主義の意義と人権尊重原理との関わりを考える。日本国憲法97条と98条の関係についての理解が重要になる。法治主義と法の支配の違いを理解することも大変重要である。
3. 人権の主体:テキスト1、2
Human Rightsは humanか、人権の主体は「人間」か「個人」か「国民」か、を考える。また、具体的には、子ども、外国人、女性、法人などの人権とは何かを考える。
4. 幸福追求権:テキスト3、4
人権の概念とその歴史を概観するとともに、道徳的概念としての人権と法的概念としての人権の違いを理解する。プライバシー、自己決定とは何か、について考える。
5. 男女平等:テキスト5
この原理の意味を、日本国憲法だけではなく各種の関連条約も参照しながら、男と女の差別、婚姻と同棲の違いなど、具体例に即して考える。
6. 法の下の平等:テキスト6
尊属・卑属といった法的差部概念から、法の「下」の平等とは何かを考える。
7. 信教の自由と政教分離:テキスト7
靖国神社の問題や宗教法人のあり方など、具体例に則しながら、国家と宗教との関わり合いについて考える。
8. 思想および表現の自由:テキスト8、9
芸術性と猥褻性、公務員の選挙活動、放送の自由、プライバシーと表現の自由の問題などを通して、守られるべき自由の程度と範囲について考える
9. 教育を受ける権利と義務:テキスト10
われわれはなぜ、何を勉強しなければならないのだろうか。教育する権限をもつのは国家か、親か、教師か。学問の自由は教える自由を含むのか。こうした問題を中心に考える。
10. 生きる権利:テキスト11
一般に「生存権」と言われる権利は、生活保護法などによる経済的保障だけでなく、「人間に値する生存」quality of laifeの問題をも含むために、安楽死や尊厳死の問題に関わってくる。
11. 経済的自由と精神的自由:テキスト12
グローバリズムの意味はなお不確定なところがあるが、経済的な意味では比較的理解しやすいであろう。そのことが精神的、文化的自由に及ぼす影響について考える。
12. 死刑制度は合憲か:テキスト13
日本国憲法には「残虐な刑罰は絶対にこれを禁止する」とある。国際的にも「死刑廃止条約」が成立しているにも拘わらず、日本ではあまりそうした議論が盛り上がらないのはなぜだろうか。
13. 新しい人権:
日本国憲法には明記されていない新しい人権が主張され、人権のインフレーションが起こっていると言われることがある。プライバシーや環境権、同性愛の権利といったものを例に、新しい人権概念、人権思想について考える。