哲学史では様々な哲学理論が論じられている。その中には神や魂を原理的に考える形而上学もあれば、現実社会や人間関係を考える倫理学的哲学もある。しかし世間では哲学ときくと、まずは「生き方」や「生きがい」を探求するような「人生哲学」を考えるのではないだろうか。もちろん、哲学史の中でも、「人生哲学」も語られている。例えばヘレニズム期の哲学はその典型である。 本講座ではこの「人生哲学」を考えてみることにする。「人は何故生きているのか」「何のために生きるのか」「一つ一つの人間関係にどう対処したらよいのか」:こういう問いが中心となる。これらは具体的な場面を通じて思索するものであるから、本講座でも具体的な資料やサンプルを利用して考えたい。そのため、映像資料としてキシェロフスキ監督の『デカローグ』を教材にすることにする。この作品は、旧約聖書の十戒のそれぞれの戒律をテーマとした、人生の局面を描く十の(デカ)物語(ローグ)からなる。恋愛、身近な人の死、人間関係の大きな変化などによって、人は、それまで当たり前だった日常から引きはがされ、慣れ親しんだはずのすべてのものを新奇なものに感じ、自分と自分の人生を見つめなおすことになる。作品鑑賞を通じて、こうした局面をめぐる細かい心理描写や映像の意味論的多義性を中心に議論していきたい。 なお、この講座は講義ではなく、演習形式をとる予定である。また、参加者数にもよるが、数回レポートを書いてもらい、その発表と講評を行うつもりである。
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