本年度は相良亨著『誠実と日本人』を読み、そこから話題を取り上げて、議論しながら授業を進めていく。 本書は、日本思想史の研究書・解説書として定評のある文献である。そのテーマは、タイトルにあるように「誠実」である。日本の思想の中で「誠実」はたびたび人の守るべき徳目として強調されてきた。しかし、「誠実」には道徳として重大な欠陥が存在している。「誠実」は自己の内面での一貫性を求めることを重視して、自らの行為が向かう他者の立場を考慮しない。「誠実」が強調される時、自己の主体性のみを強調して、他者の主体性を無視する傾向が見られる。さらに、「誠実」は道徳の根拠を内面の姿勢にのめるため、現実的な有効性や現実的な結果を排除する傾向があり、その結果主観道徳に陥ることがある。 筆者は、一方では「誠実」の道徳としての重要性を認めながらも、その主観道徳としての側面を克服することを自らの思想的な課題とした。その試みは、まさに誠実な学問的な態度で展開されている。日本人の道徳を考えるのに好適な対象である。 なお、後期については、あらたに受講者が参加する可能性があるので、その時点で受講者と話し合って授業の進め方を決定する。問題がなければ、前期の内容を継続、発展させる
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