コーディネーター:植田かおり・林史樹
民族、宗教、国家、言語、習慣、思想、芸術など、多様な領域における線引きやジャンル分け、男と女、大人と子供、生物と無生物、合理と不合理、異常と正常などの概念上の区別など、私たちはさまざまな境界線に取り巻かれている。同時に、私たちは混沌とした世界の中に線を引くことによって世界を理解し、境界線にすがって生きている。つまり、境界線とは、世界に対する個々の知と世界への関わり方を根拠づけているものであり、各文化を形成する根本的な要素といえる。
ただし、境界線は各文化を支える一方で範囲を定めているため、変化を阻む、相互理解を不能にする、異質を排除するといった否定的な働きもしている。つまり、境界線がある種の縛りも生みだしているのである。このように、私たちの生活は境界線に支えられ、それに縛られてもいるが、逆に縛られていることで支えられているともいえよう。
以上の作用を生みだす境界線に対して、境界線を乗り越える越境という行為がある。越境は、違法行為や他者の領域への侵犯でもあるが、異質なもの同士を結びつけ、自己を乗り越えていくことで異文化理解を可能にする行為といえる。
私たちはいかなる境界線に囲まれているのか。また、境界線はいかにして引かれるのか。私たちはいかにそれに頼り、守られ、安心しているのか。あるいはいかにそれに執着し、縛られ、窮屈な思いをしているのか。そして、境界線はいかにして乗り越えられるのか。この時間は、各回の担当者がそれぞれの専門の立場から講義を行う。これに参加し、自らを取り巻く境界線と自らが設定した境界線をかえりみることで、それが自分の生き方にどのように関わっているのかを考えてもらいたい。
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