コンサートホールでも美術館でも、アーチストと鑑賞者が同じように考えるものがある。それは「作品によって何かが伝わった」という趣旨の内容である。いったい、音楽や絵画という媒体で何がどのようにして伝わるというのであろうか。 「コミュニケーション」では、それが如何に多様なものを含んでいようとも、まず以て「言語」が規範的な存在となる。この場合「コミュニケーション」は、人と人との間の、言語を媒体とした「伝達」の意味をもつ。そこには、発信者となる人が考えていることを、受信者と共有する媒体となる言語に変換して相手に伝達し、相手がそれを解読する、といった図式がある。とすれば、「言語」は、用いる人が誰であれ、共通する基盤をもつことを本質とする。つまり、人が如何に個人的なことを考えていても、他者に表現するときは「共通形式」となる「言語」でもって伝えないと、言いたいことが伝わらないのである。言い換えれば、プライベートな内容を、パブリックな形式でしか伝えられないのである。しかし、これは悲観することではない。とにかく伝わることの可能性の方が価値があると考えるべきである。本講座では、そのような可能性の一つとして、言語を典型的な媒体とした理論を背景に、作品或いは芸術的表現という媒体による伝達の可能性を考えてみたい。 前期は、ほぼ『コミュニケーションの美学』に基づいて1章から4章くらいまで講義する予定である。
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