中国の「近世文学」というのは、いわゆる文言で書かれた「古典文学」(≒漢文)でもなく、また「近代」性を自覚し現代中国語で書かれた「現代文学」でもない、「むかしの話し言葉」(これを「旧白話」といいます)で書かれた、明清時代を中心に行われた「文学」のことです。日本で言えば、江戸時代の『仮名手本忠臣蔵』だとか、『東海道中膝栗毛』だとか、『南総里見八犬伝』とかと言ったようなものに相当します。 そんなものを「研究」してどうするのだ、というかも知れません。しかし例えば「旧白話」は、現在でも京劇のような伝統演劇や、TVの時代劇などに継承されています。日本で育ったひとならば、『水戸黄門』を見て聞き取れないということはないでしょう。しかし「中国語の時代劇」および「時代劇の中国語」はどうでしょうか?また、歌舞伎を見たことはなくとも、“忠臣蔵の話”を知らないひともやはりいないでしょう。しかし同様に中国人なら誰でも知っている話があったとして、それをみなさんは共有できているでしょうか?こうした点で「近世文学」は、およそ「中国語」および「中国文化」を学ぶ者ならば、必ず通らなければならない関門であるといえます。 本講義では、陳凱歌監督の映画『さらば、わが愛』でも取り上げられ、作品の中で中心的な役割を果たした京劇『覇王別姫』を読み進めて行きます。同時に、京劇の歴史や観賞方法といった、京劇の基礎知識についても考えていきたいと思います。
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