日本の古典芸能の中から、「能楽(狂言)」、「歌舞伎」、「文楽(人形浄瑠璃)」を取り上げます。 扱う時代の範囲は能楽が武家の式楽として成立する以前から、江戸時代に庶民の芸能である歌舞伎・文楽が台頭し明治の文明開化に到るまでの約1000年間を半年で講義します。
昨今、中世庶民の風刺や笑いを盛り込んだ狂言がブームとなっていますが、ストーリーや謡の面白さもさりながら、中世社会の風俗模様といった視点が理解できると当時の洛中の様子まで生き生きと見えてきます。また、支配階級のものであった能楽に対し、広く巷間に親しまれ発展した歌舞伎には、度重なる幕府の奢侈禁令にもかかわらず衣裳や道具に贅が尽くされ、当時の服飾モードに少なからぬ流行を生み、現代の着物にも残るデザインが多く生まれました。
本講義では「被支配階級」であった当時の庶民の諸相を踏まえ、舞踊や音楽の理解だけでなく、演出という面から重大な役目を担う多彩な衣装や小道具、人形の頭(かしら)などの「見た目」の視点を重視します。使われる役柄や、当時の服飾、社会情勢との関わりへと理解を深めてもらう講義になりますので、スライド・ビデオ教材を多く用い、時間外で国立劇場、能楽堂への観劇、観能を行う予定です。(希望者のみ、出席は自由です) せっかく日本にいるのに日頃関わりの薄く、また何かと敷居が高く思われがちなジャンルですが、けしてそんなことはありません。これから世界に出てゆく皆さんに、また世界中から日本にみえる方々に、この講義が脈々と息づく日本の生きた美に触れる機会になればと思います。
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