今まで、本科目では、言語記号論、近現代の言語起源論、精神分析の言語学、日常言語派の言語哲学、言語行為論などといった典型的な言語哲学の主題を取り上げ講義してきたが、今年度は少し冒険してみたいと思う。前期・後期共に「ジェンダーと言語」という主題で講義してみたいと思う。 ジェンダー論は多様であるが、その中には哲学的思索をもつ議論もある。特にその議論が「言語」に注目する点は最も哲学的であると言うことができる(この場合の「哲学的」の意味は「観念論的・形而上学的」といった伝統的なものであって、さしあたって、権利や実利の要求や政治的社会的地位の変革という現実的な目的とは直接関わらない思索傾向を示す)。 「言語」に注目するジェンダー論者は、多くの場合、近代哲学の批判や受容(カント、ヘーゲル、現象学)から始める。これは現代の時代性を特徴づけるための出発点である。またフランクフルト学派にも言及する。その批評理論や社会批判が方法的に生かせるからである。そして構造主義・ポスト構造主義を用いる。体系性の構築と体系性の解体という目論見にとって欠かせないからである。これらの哲学史的考察があって初めて上記のようなジェンダー論が成立していると言っても過言ではないであろう。前期はこれらを通覧し、そこに、「言語」に注目するジェンダー論がどのような視線を投げかけているのかを講義したいと思う。
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