ヨーロッパの「周辺」としての南欧スペインは、20世紀を迎えた時、近代化が最も遅れた社会であった。社会的矛盾の根は深く、その改革は大きな困難に直面した。複雑な利害関係は、ついにはスペイン内戦(1936−39年)という、国民が暴力で敵対する悲劇を生んでしまった。 内戦終了後に成立した軍事独裁体制は40年近く続いた。しかし、1975年に独裁体制が崩壊してから、スペインは目覚しい変貌を遂げた。それは民主化のプロセスの一環として推進され、中央集権から地方分権体制への移行、社会福祉国家の形成、貧富の差の解消、機会均等原則の浸透、女性の意識変化、少子高齢化などの質的変化に結びついた。 このようなスペインの近代化の歩みを、政治の変遷・社会の変化を中心に解明するのが、この講義の目的である。 スペインが社会の近代化に向けて直面した様々な側面をケーススタディーとして分析するが、講義の最終目標はスペインの個別事情に詳しくなることではなく、相対的に遅れた国々が近代化を進める上で直面せざるを得ない問題は何か、克服しなければならない課題は何かといった普遍的なテーマについて熟考することである。実際、中東欧諸国、韓国、中国といった近代化の課題に直面している国々や日本社会の諸問題に言及して、スペインに関する地域研究が投影するimplication(含意、意義)について、常に問題提起を行いたい。
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