歌舞伎の女形のように、英国近代初期の舞台では少年が女役をつとめた。女優が舞台に立つようになったのは王政復古期である。『ハムレット』の上演史をみると興味深いことに、1775年に英国の女優サラ・シドンズがハムレットを演じて以来、フランスの女優サラ・ベルナール(1899年)など、多くの女優がハムレット役に挑んでいる。日本でも元・宝塚の麻美れい(1995年初演)や安寿ミラ(2002年初演)がハムレットを演じている。なぜ男優が「女」を、女優が「男」を演じることは可能なのか、ジェンダーとは何かを考える。 あわせて、日本におけるシェイクスピア劇上演の可能性について考察するため、少年俳優がいた近代初期の上演形態に近い演出や、男女の役割を交替した上演を取りあげる。出演者が全員男優である、ジョナサン・ケント演出の『ハムレット』(野村萬斎主演)、ハムレットと親友ホレイショーを女優が演じ、それ以外の登場人物(母ガートルードやオフィーリアも)をすべて男優が演じた、栗田芳宏演出の『ハムレット』(安寿ミラ主演)を紹介する。異文化のコンテクストにおいて、シェイクスピアを上演することにはどのような文化的な意味があるのか。異文化プロダクションの可能性をさぐる。 『ハムレット』のテクストを読み、日本における舞台を比較しながら、ジェンダーの表象を分析する。 なお「普通」に男優がハムレットを演じた、蜷川幸雄演出の『ハムレット』、ピーター・ブルック演出の『ハムレット』なども時間が許すかぎり紹介したい。
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