言語研究演習-1 
HISAIZUMI TSURUO
久泉 鶴雄 
4単位 
3〜4年 
通年 
英語の発想に基づく英語表現と、日本語の発想に基づく日本語表現の対照的研究

「それしか知らない。」という日本語を自然な英語で言うと、“That's all I know.”だそうだ。“I don't know anything but that.”“I don't know anything else.”“I don't know nothing else.”などという表現よりも自然だそうだ。ところで、この四つの英文を比べてみると、あとの三つは日本語と同じ否定文だが、肝心の最初の英文は逆に肯定文になっている。日本語が否定文なのに、英文は肯定文になっているのはなぜだろうか?
日本語も英語も同じ意味だが、日本語で「それを知らない。」と言えば「それ」だけだが、「それしか知らない。」と言えば「しか」が加わる。「しか」が加わることによって「それ以外のもの」が言及されるようになる。英語と同じことを言っているのだけれども、日本語では「それ」と「それ以外のもの」の両方に気配りがなされている。
英語の方は、thatのみが表現されているだけである。それ以外のものは言及されていない。まことに率直である。
同じことを表現しても日本語と英語とでは随分と表現が食い違うことがあるものだ。英語らしい英語を使うには、こういう問題を克服していく必要があるだろう。なぜなら我々はつい母語の感覚で英語を使ってしまうからだ。
この演習ゼミでは、日英語の間には一体どれくらいこのような発想と表現のずれがあるのかを探っていきたい。最初は発想と表現のずれの具体例を広範囲に集めよう。そして、その次にそれを根本から支配している原理を探求しよう。原理が明らかになれば、あとは応用問題だ。頭と経験がわれわれの言葉の技を磨いてくれるだろう。  

評価方法: ゼミにおける意見の発表が活発か、すぐれた洞察力があるか、ユニークな観察をするか、研究熱心か、など、授業参加時の積極性を評価する。あとの半分は最終授業日までに提出するゼミレポートの内容と形式によって評価する。欠席の多い学生には高い評価を与えない。

テキスト名: 国広哲弥編『日英語比較講座 第4巻 発想と表現』大修館書店、1982年
参考文献は、授業時に参考書目一覧表を配布する。

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――
1.(1)「それしか知りません。」と“That' all I know.”のおびただしい類例
(2)英語の線的表現と、日本語の点的表現
2.(3)肯定と否定、否定と肯定
(4)同時性を示す as副詞節は関係代名詞節に訳した方がよく意味が伝わる
3.(5)日英語における視点の位置のずれ
(6)「何々なら」の英語における対応表現
4.(7)冗長な英語と簡潔な日本語、冗長な日本語と簡潔な英語
(8)日英語における待遇表現の違い
5.(9)僕はコーヒーだ、わたしは紅茶よ
(10)Yes/Noと はい・いいえ
6.(11)文化の違いと語彙の違い
(12)イディオムに見られる発想の違い
7.(13)挨拶表現の違いと発想の違い
(14)談話構造の違いと発想の違い
8.(15)個体を際立たせる英語、個体を全体に埋没させる日本語
(16)動作主としての人間を際立たせる英語、動作主の人間を出来事に隠す日本語
9.(17)個体を志向する英語、連続体を志向する日本語
(18)<モノ>的表現を志向する英語、<コト>的表現を志向する日本語
10.(19)個体表現を義務付ける英語、個体表現を任意にまかせる日本語
(20)BE言語の日本語、HAVE言語の英語
11.(21)人間志向性の英語、<モノ・コト>志向性の日本語
(22)使役主の支配が強い英語、被使役主の自主性が高い日本語
12.(23)動作主を抑圧しない英語、動作主を非動作主に変える日本語
(24)受動態でも隠しきれない英語の動作主、他動詞を自動詞に変えて動作主を消す日本語
13.(25)研究発表
(26)研究発表
14.(27)研究発表