タイ総合研究IV 
KATAOKA TATSUKI
片岡 樹 
2単位 
2〜4年 
後期 
「多民族国家」タイ国の理解

タイ国は東南アジアの中でも比較的民族的・文化的同質性の高い国であるといえるが、一方で多民族社会という側面も有している。通常の「タイ社会論」「タイ文化論」はおおむね多数派タイ人の社会・文化についての議論であるといえるが、そこから欠落する部分として、華僑、印僑、マレー系回教徒、山地民族等の社会・文化・歴史について紹介する。また仏教徒タイ人のあいだでも東北部、北部の住民、あるいはタイ系の少数方言集団にみられる独自の文化・伝統とそれに根ざした地域感情についても概観する。これら諸事例を学問的に理解・分析する方法として、人種、民族、宗教、居住地域等によって区別される人間集団に関する文化人類学等の諸理論についても紹介する。以上を通じて「タイ社会」を周縁部から立体的に把握することを試みたい。  

評価方法: 期末レポートおよび平素点による。

テキスト名: テキストは特に定めず、関連参考文献は適宜指示する。

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――
1.導入部。「多民族国家」としてのタイ国の特質を概説する。
2.タイ国の国民統合の歴史。近代以降のタイ国における「国家」「民族」「国民」という概念の形成と、それによって展開されてきた国民統合の試みを通時的に概観する。
3.華僑について1:概説。タイ社会における華僑社会・華僑文化の位置づけについて理解する。それにあたり、東南アジアのなかでのタイ華僑社会の特質、および南洋華僑ネットワークの中のタイ華僑社会の位置づけについてもふれる。
4.華僑について2:華僑移民史と対華僑政策。タイ華僑の移民史と、歴代政府による対華僑政策について説明する。
5.華僑について3:民系ごとの違い。潮州系、雲南系、福建系など華僑内部の各民系とそのタイ国内での分布について説明する。
6.印僑について。インド系移民の分布、民系、移住史についてふれる。インド系住民を含む総称としての「ケーク」というタイ語の概念についてもあわせて理解を深める。
7.マレー系回教徒について。マレー半島がタイ領とマレーシア領とに分割された経緯を明らかにし、タイ国内のマレー系回教徒の宗教的・社会文化的特質や、いわゆる「南部4県問題」についても説明する。
8.山地少数民族について1:概説。各民族の概要と歴代政府の山地民政策について簡単な説明を行う。
9.山地少数民族について2:山地少数民族と冷戦。東南アジアにおける内戦や冷戦の中で翻弄されてきた山地社会の戦後史について説明する。
10.山地少数民族について3:「民族」とは何か?タイ山地民の諸事例やそれについての学問的な議論をとりあげ、「民族とは何か」について考える。
11.タイ国の先住民族。タイ族の南下以前に現在のタイ国の版図で栄華を誇っていた古王国の歴史をとりあげ、その担い手であったモン、ラワといった先住少数民族の現在の社会・文化について説明する。
12.タイ系少数方言集団と地域主義1:東北部。多数派タイ族内部での差異についてふれる。東北部のラーオ系住民の独自の文化と歴史について説明する。
13.タイ系少数方言集団と地域主義2:北部。多数派タイ族内部での差異についてふれる。北部のユアン系住民等の独自の文化と歴史について説明する。
14.タイ国を越えて広がるタイ(Tai)社会。広義のタイ族はタイ国内にとどまらず周辺各国に居住している。ラオス、ビルマ、インド、中国等に広がるタイ系諸族の社会・文化についての理解を深める。
15.その他の少数民族。上記の範疇から漏れる各民族について概説的に説明する。