現代国家論I 
AOYAMA HARUKI
青山 治城 
2単位 
1〜4年 
前期 
現代世界における国家の現状

古代ギリシア以来、国家についてさまざまに論じられてきたことは事実であるが、現在の我々がイメージする「国家」と古代の国家とはかなり異なる。現代の国家は、古代の「都市国家」でも中世的「帝国」でもなく、「国民」を構成する「国民国家」であり、その歴史はそれほど長いものではない。ヨーロッパに源流を持つ近代「国民国家」は、主権と領土(国境)と国民からなる「主権国家」であり、「領域国家」でもある。ところが、その近代国家は、今、EUを典型的事例として見られるように、その発祥の地において新たな展開を見せ始めている。
冷戦構造の終焉は、イデオロギーによる国家統合を危うくし、各地で「民族紛争」「宗教紛争」などを引き起こしている。また、一極化したと言われる冷戦後の世界で支配力を強めたアメリカは、他の国を「悪の帝国」(これは正確には冷戦時代のことだが)とか「悪の枢軸」などと呼んで非難し、武力攻撃さえ辞さない姿勢を見せている。果たして国家に「良い国家」と「悪い国家」があるのだろうか。国家の正当性の根拠はどこにあるのだろうか。こうした問題を考えるために、本講では、できるだけ多くの生の現実に当たることで、「国家」をめぐるさまざまな現状を把握することに努めたい。  

評価方法: 出席は取らないが、毎回講義やビデオの内容について小レポートを書いてもらう。これが一種の出席点となる(一回当たり5〜7点)。最後に、授業で見たいくつかの国家のあり方に焦点を当てて、現代国家の問題点についてのレポート(30〜40点)を書いてもらう。

テキスト名: テキストは、各回の授業計画にあげた文献とする。授業中に触れられるのはそのごく一部になるので、これらを各自積極的に読んでレポートに生かしていくことが求められる。

注意事項: 出席点が6割余を占めることになるので、欠席があまり多い場合には最後のレポートも受け取れない場合がある。授業計画は予定であり、順序、内容とも変更される可能性がある。 

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――
1.はじめに:
 現代国家論の意義を、特にフランス革命を機軸として考える。
2.EUの歴史と実験:
 近代国家発祥の地における国家統合の思想的背景と現在の状況を概観する。ヨーロッパ的近代国家の理念を探る。
3.文明の衝突:
 ハンチントン『文明の衝突』を参考に、冷戦以後の世界の状況を考える。グローバリズムが説かれる一方で起こっている分裂の契機に目を向ける。
4.イスラム潮流:
 ビデオ「新・対決する文明」を参考に、ヨーロッパ的国家像の問題点を考える。
5.言葉と国家:
 田中克彦『ことばと国家』などを参考に、言語の統一に果たした国家の役割について考える。
6.言葉の消滅と多言語国家:
 ビデオ「言葉の消滅」を見ながら、国家における公用語、共通語の意味を考える。
7.民族と国家:
 第2次大戦後、「民族自決」を合い言葉に多くの国家が独立した。しかし、ことばとの関係同様、「民族」と「国家」の外延は決して一致しない。国家にとっての民族のもつ意味を考える。山内昌之『民族と国家』参照。
8.ユーゴスラビア:
 他民族国家として成立した同国の崩壊過程を、ビデオなどの実写を通じて考える。
9.イスラエル:
「イスラエル」というのは旧約聖書の創世記に遡り、「神の戦士」を意味する。皮肉にも、その首都エルサレムは「平和の都」を意味する。イスラエルとは「ユダヤ人」の国か、「ユダヤ教徒の国」なのか、それとも「イスラエル国防軍」によって守られる国家なのか。イスラエルという国家の成立背景と現状を考える。立川良司『揺れるユダヤ人国家』
10.暴力と国家:
 ビデオ「ツァハル(イスラエル国防軍)」を見ながら、暴力装置としての国家の側面を考える。
11.日本:
 わが国は一体いかなる国家なのか。小熊英二『日本人の境界』などを参考に、「日本人」と「大日本帝国」および「日本国」との関係を考える。
12.在日:
 ビデオを見ながら、日本にいる「在日」の人々の現状を考える。と同時に、沖縄の人々の特殊な地位についても考える。
13.まとめ:
 アメリカ合衆国という国家のあり方を中心に、現代国家の問題を考える。