中国文化思想概論II 
KUBOTA YOSHITAKE
久保田 善丈 
2単位 
1〜4年 
後期 
近代中国のオリエンタリズム

とりわけ19世紀以降、非西洋は西洋のオリエンタリズムにさらされる。そこではイメージの捏造とステレオタイプ化が進められ、中国も「野蛮」「後進」の文脈で表象されることになるのである。そして、こういった帝国主義文化のあり方を批判的に取り上げる傾向は地理的、学問的領域を越えて広く展開され、近年その関心は、アジアを対象とする「日本のオリエンタリズム」にも向けられている。このような議論をふまえつつ事例演習を重ね、オリエンタリズム批判の基本的な方法を理解することが授業の目的の一つであり、かつ、より重要な目的へアプローチするための前提となる。以上がいわば「序論」に相当する。一方、「本論」部分では、上述のオリエンタリズム批判が内包する問題に目を向ける。すなわち、オリエンタリズム批判の文脈では通常、「西洋・日本によって中国が一方的にまなざしの対象として語られてきた」ということが強調されることになり、結果的に「まなざしの主体としての中国」は隠蔽されることになるし、さらに、そこでの日本があたかも「近代的まなざしの終着点」となることによって、オリエンタリズム批判は皮肉にも、「近代を受容しない(できない)アジア」というイメージの再生産に寄与する可能性すら内包することになるのである。これに対して、この授業では、近現代中国を「まなざしの主体」として捉えていく。そしてそれは、「中国自身のオリエンタリズム」や漢民族中心主義的「帝国化」の契機にアプローチする試みでもあり、「近代的まなざしの行方」を探ることを意味するのである。以上のような問題意識を受講者とともに検証していくこと、そのために近代中国における啓蒙的メディア(大衆の存在を前提とする新聞雑誌等)をオリエンタリズム批判の手法によって読み解いていくこと、すなわち、講義者と受講者が共にオリエンタリズムに象徴される「近代的まなざし」の行方を中国に求めることがこの授業の最も重要な目的ということになる。  

評価方法: 事例演習、発表および、レポートによって評価する。レポートでは、授業を通じて身に付けた方法によって、自ら選んだテキストあるいは図像・映像に対応することになる。

テキスト名: 特定のテキストは使用せず参考文献を随時提示。必要な資料はその都度コピー配布。

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――
1.序論―「まなざしの対象」としての近現代中国
「オリエンタリズム」の構造
 自身あるいは身の回りの「オリエンタリズム」探し
2.オリエンタリズム批判の陥穽
「近代的まなざしの終着点」としての日本
「まなざしの対象」としての中国―主体性の隠蔽
3.「まなざしの主体」としての近現代中国
 清末の報刊について
 近代報刊出版史概観
 清末の啓蒙運動
4.変革・啓蒙・西洋科学(格致)―新たな「文明化の使命」
5.「文明化の対象」としての大衆
6.奇妙な世界と奇妙な中国―『点石斎画報』の世界
 自己イメージの動揺
7.西洋をめぐるいくつかのデマ
 事例演習
8.近代中国の「オリエンタリズム」<1>―『蒙学報』の世界
『蒙学報』について
 近代日本の少年雑誌との比較(『少年世界』)
9.『蒙学報』の自他イメージ(連載「絵図小学読本書」)
10.分析―「西洋の万能性」「欠如としての中国」
 事例演習
11.近代中国の「オリエンタリズム」<2>―『杭州白話報』の世界
『杭州白話報』について
『杭州白話報』の自他イメージ(「地理問答」「俗語指謬」)
12.分析―「他者」としての大衆イメージの意味するところ
 事例演習
13.近代中国の「オリエンタリズム」<3>―『童子世界』の世界
 事例演習(課題の設定/分析/結論あるいは展望)
14.現代中国の「オリエンタリズム」
 東南アジア旅行案内、少数民族地域旅行案内―上海書城
 中国語圏における研究の状況―東方主義・後植民地主義
15.まとめと展望―「オリエンタリズム」の行方
「オリエンタリズム」の共有と「国民化」
「オリエンタリズム批判」に対する批判をめぐって