憲法IIC 
AOYAMA HARUKI
青山 治城 
2単位 
1〜4年 
後期 
国家と憲法

憲法という「法律」は他の法令と少し違ったところがある。一言でいえば、憲法が立法者を決め、それの作る法律に正統性を与えるものだからである。つまり、何が正統な「立法権者」であるかを決めているのが憲法なのである。もちろん、拘束力をもった判決を下す権限をだれがもつのかを決めているのも憲法である。法的に言えば、そうした諸権限の総体、連鎖が「国家」なのであり、憲法は国家を構成するものなのである。しかし、国家あってこその憲法であり、国家が憲法を作るのだという議論も根強く残っている。日本国憲法に即しながら、憲法と国家の関係を考える。権力分立の原理とはどういうものか、日本国憲法においてはどのように実現されているか、この点を中心に見ていく。
 現在の憲法は、占領下アメリカの指導によって作られた経緯から「日本国」にはふさわしくないという議論もある。その中には、「憲法」自体不要ではないかという「廃憲論」もある。こうした点を考えても、現憲法の基本理念である「立憲主義」「法の支配」の意義を十分に理解されるように配慮したい。  

評価方法: 基本的には期末の筆記試験による。中間に小テストを行う予定。

テキスト名: 阪本昌成『憲法1』有信堂
鶴見俊輔他『英文対訳 日本国憲法を読む』柏書房
他の法令を参照する場合もあるので、小型六法を用意すること。

注意事項: 授業計画は、順序、内容とも予定であり、変更される場合がある。 

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――
1.はじめに:
 ビデオ(「憲法から考える21世紀の日本」)を見ながら、日本という「国家」について考える。女性天皇の問題や国際貢献のあり方など、憲法と国家の関係が今揺れ動きつつある。そうした点についての理解を目指す。
2.憲法とは何か:
 Constitutionと Constitutional Lawないし Fundamental Lawの意義と違いを考える。
3.最高法規としての憲法:
 日本国憲法第10章の意義を考える。
4.大日本帝国憲法と日本国憲法:
 ビデオ(「憲法はまだか」第1部)を見ながら、戦前の日本の国家体制を考える。
5.日本国憲法制定の法理:
 ポツダム宣言受諾に始まる日本の戦後において、一種の革命が起こったと見る見方から占領下における改正は無効であるとの議論まで、「新しい憲法」の制定についてのさまざまな見方を考える。
6.象徴天皇制と国民主権:
 日本国憲法制定過程ならびに成立直後に起こった「国体論争」と「主権論争」について考える。天皇制と国民主権原理の関係が問題となる。
7.平和主義:
 ビデオ(「憲法はまだか」第2部)を見ながら、憲法第9条と自衛隊および日米安保条約について考える。
8.政府の9条解釈:
 日本国政府の9条解釈は、自衛権否認論から最近の集団的自衛権容認論まで、大きな変遷をたどってきた。その過程をふりかえる。
9.国家の自衛権:
 個人の正当防衛権と国家の自衛権とは比喩的に並べて論じられるが、自衛権とは一体何か、自衛戦争と侵略戦争とはどう違うのか、を考える。
10.権力分立制度:
 フランス人権宣言は、人権尊重の原理とともに権力の分立を「近代憲法」であるための基本的条件としている。その趣旨を考える。
11.立法権:
 日本国憲法41条を中心に「立法」権と「国会」の役割について考える。
12.行政権:
 日本国憲法には「行政権は内閣に属する」とあるが、内閣や行政とは何であり、地方行政とはどのような関係にあるのか(あるべきか)を考える。
13.議院内閣制と大統領制:
 日本でも時折大統領制導入論が起こる。この両者の意義と違いを考える。
14.司法権:
 裁判はいかなる問題を解決できるのか。違憲立法審査権の意義を中心に、また最近の司法改革の動きを見ながら、司法の意味を考える。
15.テロ問題と21世紀の国家:
 明治の日本に起こった大津事件と昨年のアメリカの「同時多発テロ」を考えながら、国連の役割や国際裁判など、21世紀における国家のあり方を考える。