法学IB 
AOYAMA HARUKI
青山 治城 
2単位 
1〜4年 
前期 
日常生活のなかの法

普通に暮らしている限り、多くの人は、裁判所に出かけることも、法律を意識することもほとんどないだろう。とすると、法律に関わるということは特別のことなのだろうか。しかし、どんなに頑張っても3年で大学を卒業することはできない。それは、学校教育法という法律が入学資格や修業年限を定めているからである。普段の買い物で価格に5%上乗せさせられるのも消費税法の規定による。現在どのくらいの数の法律があるかを正確に言える人はもはやいない。それほど、現在の日常生活は、その隅々にまで法的規制の網がかかっているのである。
 本講では、学生であっても遭遇する可能性の高い具体的事例に則して、法の仕組みや法的な考え方を理解することを目的とする。刑法、民法、憲法の基本を学ぶ。  

評価方法: 期末の筆記試験による。ただし、数回の小テストを予定している。

テキスト名: 松井茂記他『はじめての法律学』有斐閣
広範囲におよぶ法律条文を参照するので、小型六法を用意すること。最近重要な法改正や新しい立法がなされているので、できるだけ新しいものがよい。六法は、授業以外でも役立つことがある。

注意事項: 授業計画の内容は、順序、内容とも予定であり、変更される可能性がある。 

授業計画――――――――――――――――――――――――――――――
1.はじめに:
 法や法学が一般に嫌われる理由はいろいろあるが、おそらく‘愛’を語る余地がないこともその一つかも知れない。実際、法が規定するのは「婚姻」ではあっても恋愛や「結婚」ではない。法の理念、精神は‘正義’だと言われる。正義と愛とは全く相反する価値なのだろうか。
2.日本人の法意識:
 中国にも「法3章」といって、法的規定はできるだけ少ない方がよいという考え方がある。日本人の多くもまた、今なお訴訟や判決を嫌い、調停や和解という方法で問題解決を計ろうとする傾向がある。これは権利意識が薄いからなのか、争いを好まないからなのか。
3.犯罪と刑罰(1):
 日本人の多くが最初にイメージする法は、刑罰を課す「刑法」ではないか。その場合には、法は恐ろしいもの、近づきたくないものと感じられるであろう。だが、近代刑法の理論では、刑法は「犯罪者にとってのマグナ・カルタ」だとも言われる。刑法に規定のない行為はいかなる行為も罰せられないからである。そもそも「犯罪」とは何であり、「刑罰」とは何か。このことから考えていきたい。
4.犯罪と刑罰(2):
 近代刑法の大原則、「罪刑法定主義」について考える。刑法は「人を殺してはいけない」とは命じていない。ただ単に「人を殺した者は、・・・の刑に処す」としているだけである。罪刑法定主義は、法と道徳の関係を考える上で重要な原則である。
5.犯罪と刑罰(3):
 ある行為が処罰対象となるためには、それが「犯罪」と認定されなければならない。「犯罪」が成立するための条件を考える。殺人罪を例にとれば、「人を殺す」とはどういうことだろうか。交通事故で多くの人が亡くなっている現状は、その数だけ「殺人」が行われていることになるのだろうか。精神障害者が無罪となるのはなぜか。
6.犯罪と刑罰(4):
 犯罪捜査から処罰に至る過程を考える。また、「陪審」制度や「死刑」制度の是非についても、参加者とともにディベートをしてみたい。
7.刑事責任と民事責任:
 刑罰を課すことで守られる利益(法益)は普通、社会の秩序であると言われるが、民法上要求される損害賠償にはどのような意味があるのだろうか。「慰謝料」には刑法的「制裁」の意味はないのだろうか。
8.不法行為法:
 民法上の責任が発生する原因の一つが「不法行為」である。現代社会は交通事故をはじめ、思わぬ事故で人を傷つけてしまう機会が増えるとともに、公害など大規模な被害となるとすべてを補償することが困難になる。そのため、各種の「保険」制度が用意され、また無過失でも賠償責任が課せられる場合がある。すると、「故意または過失によって他人の権利を侵害した者」に課される損害賠償義務という不法行為の原則が崩れることになる。こうした問題を踏まえて「不法行為」の現代的意義を考える。
9.契約法:
 民事責任のもう一つの柱が「契約不履行」に基づく損害賠償責任である。平たく言えば、約束違反に対する責任であるが、一体我々はなぜ約束を守らなければならないのだろうか。また、単なる「口約束」と書面をかわす正式な「契約」とはどのように違うのか。
10.家族法:
 民法の領域には、家族関係を規制する部分がある。婚姻条件などを定める親族法と相続に関する相続法である。この部分だけは、戦後大幅に改正されて、文字もひらがな書きに改められた。この改正の内容と意義を考える。昨今話題の「夫婦別姓」制度の問題も考えたい。
11.私事と自己決定:
 国会や地方自治体の議員さんたちはほとんどがスーツを着ている。ジーンズで登庁して除名されたり問責された人もいる。こんなことは各自の「自由」ではないのだろうか。車に乗るのにシートベルトを締めないと処罰されるのは、どんな根拠に基づいているのだろうか。
12.法の支配と法治主義:
 犯罪者には「人権」はないのだろうか。民法上の様々な権利と憲法で保障される「人権」とはどのような関係にあるのだろうか。また、そもそも刑法や民法と憲法の関係はどうなっているのだろうか。憲法の人権保障の意義について考える。
13.人を殺す権利と死ぬ権利:
 ミステリーや犯罪小説は高い人気を保っている。それらの多くの場合、読者は犯人の方に感情移入している場合が多いのではないか。「人権」概念の基本にあるのは「生命」に対する権利=生きる権利であるが、場合によって人を殺す権利(具体的には死刑や戦争の場合)や自分の生命を絶つこと(安楽死とか尊厳死と言われるもの)も「権利」と考えられるだろうか。
14.人権と国家:
 法を作って執行する機関としては、まず「国家」が考えられよう。しかし、現在では「国家主権」を拘束する多くの条約が結ばれているし、地方自治がさらに進めば近代的な「国民国家」体制は、少なくとも変質せざるをえないであろう。テロや戦争に人々を巻き込む権限を国家は持っているのだろうか。こうした観点から人権と国家の関係を考える。
15.まとめ:
 変化する現代的状況における法の機能と限界について考える。