わたしのソウルフード-食べ慣れたものから普段着の文化をさぐる⑨

第9回:ペク・ソンス先生(国際コミュニケーション学科:韓国、ソウル出身)

 

父にとって多くの思いが詰まっています

-冷麺

 

北朝鮮出身者が集まる場所

 わたしはあんまり食べ物に関心がなく、日本の韓国料理店に入っても、あれこれ文句があるということはありません。日本的な味にはなっていますが、それぞれおいしいです。ただ、冷麺だけは、「ぜんぜん違う」と思ってしまうのです。

 冷麺は、わたしにとってというより、わたしの父にとって特別な食べ物でした。

 父は北朝鮮出身です。戦争のとき、ひとり南にやって来たので兄弟はいまでも北にいます。こうした離散家族を持つ人たちは少なくありません。彼らが北を恋しがり集まるのが冷麺店でした。プルコギがまず出て、次が冷麺。それが故郷の味なのです。

 わが家の名字はペクですが、全国のペクさんが何百人と集まるペク氏会というものがあります。小学校の校庭などを借りて運動会のようなイベントをやったあと、二次会として行くのが必ず冷麺店でした。

 

もともと北の食べ物だった

 冷麺は、ピョンヤン冷麺とハムフン冷麺が有名ですが、もともと北朝鮮の食べ物なのです。昔は冷蔵庫がありませんでしたから、冷麺は冬に食べるものでした。

 スープのベースになってるのは牛骨や鶏肉、また水キムチの汁です。キムチも北のものは味が薄く、水気が多いのが特徴です。凍らないように、冬には土に埋めたりしますが、それでもうっすら氷が張ります。これを麺にいれて、スープがシャーベット状になったものを、オンドルで暖かくなった部屋で食べます。

 

麺にはそれぞれ特徴がある

 冷麺は北の食べ物ですが、また民族的な食べ物でもあります。ソウルの大学の学食にもありますが、わたしから見れば、本物の冷麺ではありません。麺が工場で作ったものなのです。日本で食べる冷麺も、どんな高級焼肉店の冷麺でも、麺が違うと感じます。

 ピョンヤン冷麺は主にそば粉で麺を作り、ハムフン冷麺はジャガイモやサツマイモなどのデンプンを使います。材料の違いから、それぞれの麺には特徴がでます。ピョンヤンのものは、太くて比較的やわらかい感じ。でも、ハムフンの麺は、細いのに噛みきれない食感です。