リレーコラム・2008.4.

「韓国語の教育免許をめざす高校生の皆さんへ」

浜之上幸

 

 

 

 新学期が始まった.例年ほぼ同じ科目を教えているわけであるが,それでも第一回目の授業は幾分の緊張感と,何かしらの新しい気持ちを持って教室に入っていく.

 さて,神田外語大学韓国語学科では,高等学校での英語と韓国語の教員免許を取得することができるいわゆる教職課程がある.そのための必修授業として,私は「韓国語科教育法T・U」という科目を担当している.

 この科目の内容はお察しの通り,高等学校で韓国語を教えるためにどのようなことが必要であるかを教えることである.日本における韓国語教育一般の状況や,背景となる韓国語学もしくは言語学的知識,高校生という特定の年齢層にあった教授法,など教えることは多岐にわたっており,教えている私自身も楽しめる授業である.

 ところが,今年の第1回目の授業時に教室に入っていったところ,韓国語学科所属ではない学生が2名座っているだけで,自由選択科目として履修したいとのことであった.このことは,これまで存在した,韓国語の教職課程を履修する学生が韓国語学科からついに消滅したことを意味する.

 この原因を考えてみると,以下のことが考えられる.

 

1.神田外語大学韓国語学科で交換留学が活性化し毎年14名の学生が韓国に留学するようになったが,留学した場合,教職課程の免許取得するためには,大学に5年在籍しなくてはならない.その1年が学生にとって経済的に負担となっている.

2.韓国語科の免許だけを持ってしては,高等学校の専任教員になることが,ほぼ不可能である.関西方面ではある程度可能であるようであるが,関東では,一つの高校における韓国語の授業時間数が極めて少なく,韓国語科の専任教員を任用する学校を期待することができない.

3.よって,高等学校の専任教員になるには,英語の免許も取得し,英語科の教員試験に合格し,英語科の教員として赴任した後に韓国語を教えるということになる.現在,高等学校で韓国語を教えている教員の方々の多くは,一次的に英語・国語・社会などの教員として採用試験に合格された後,韓国語の免許を取得されたというのが実情である.

4.そうなると,高等学校で韓国語を教えたいという夢を4年間でかなえるには,韓国留学をあきらめ,英語免許取得のために本学で課しているTOEIC650点(!)をクリアし,英語と韓国語の教職単位の両方を取得するという,極めて過酷な学生生活を送らざるをえないということになる.

5.かくして,冒頭述べたように,韓国語の教職課程履修者がほとんどいなくなるということになってしまうのである.

 

 以上述べたような状況にもかかわらず,何人かの学生はこの難関を突破し,高等学校の先生になっている.

例を上げると,韓国語学科出身で本学の大学院で英語教育も専攻したKi君は,千葉県の教員であるが,英語,韓国語の免許を持ち,スペイン語もかなりできる.赴任先の高等学校で韓国語も担当したことがある.また,昨年の春韓国語学科を卒業したKu君は,千葉県で1年間臨時採用教員をした後,故郷の北海道の採用試験に合格し,今春から高校の先生になった.また,英語の免許はとらず,韓国語の免許だけを取得したIさんは,東京と千葉にある数校の韓国語(朝鮮語)非常勤講師としてかなりの時間数勤務しており,自活できる収入を得ている.

高校で韓国語を教えたいという高校生の皆さんの夢をかなえることは,このように決して簡単なことではない.しかし,自分の次の世代に知識と知恵を継承していく「教育」という職業は,チャレンジする価値が充分あるものである.