異文化コミュニケーション研究所
    Intercultural Communication Institute

 
研究プロジェクト成果

 


(異文化コミュニケーション研究所
共同研究プロジェクト成果図書)


『異文化コミュニケーションの理論
─新しいパラダイムを求めて』


 石井 敏、久米 昭元、遠山 淳[編著]

有斐閣ブックス 116-1C
2001年1月発行、2200円

 当研究所が主催して行ってきた共同研究プロジェクトの成旺として、多くの関係者から待望されていた理論概説書が新世紀の初頭に刊行された。共同研究プロジェクトの経緯と本書の内容を手短に紹介したい。

 1997年2月に当研究所で共同研究プロジェクトの1活動として、異文化コミュニケーション理論構築研究会が組識された。その背景として、当分野の研究と教育が1970年代以降注目を浴びると共に、急速に進展したにもかかわらず、異文化コミュニケーションが本来備えているダイナミズムが矮小化されているのではないかという認識があった。極端にいえば「異文化コミュニケーション」が世間では「英会話」と同義的に認識されがちになっているということに危機感を抱いたのである。そして、世の中の急速な変化のために、文化とコミュニケーションにかかわる諸問題に対しても、具体的ですぐにでも使えるという実践中心の異文化理解や異文化適応訓練に一箱の関心が集まり、学際的で、広大かつ奥深い領域である異文化コミュニケーションの研究・教育に偏向をきたすのではないかという危惧があった。

 そこで、上記のメンバーが集まり、合計12回にわたる研究会を開き、約3年にわたって意見交換を続けた。研究会で討議された主な内容は、理論の概念、理論構築の必要性、理論構築の過程、コミュニケーションと異文化コミュニケーションに関する代表的な既発表理論の考察と批評、新しい仮説理論の試験的構築などであった。
多くの学問領域の場合と同様に、異文化コミュニケーション関連の理論構築も主として欧米、とりわけ米国で試みられてきた。そのために、本書のかなりの部分がそれらの紹介に充てられている。しかし、このプロジェクトでの基本目的は、既成の理論を無批判に受容し紹介することではなく、それぞれについて必要な批判をし、新しいパラダイムを求めて日本を含む東洋の文化的伝統に根ざした仮説理論を試験的に構築することであった。

 本書は大きく3部に分けられている。第1部では、異文化コミュニケーション研究の背景として、開始から現在に至るまでの発展を振り返っている。第2部では理論の概念と主要理論の特徴として、メツセージ中心の理論、対人関係中心の理論、集団・組織中心の理論、異文化接触中心の理論など異文化コミュニケーションに関連する既存の代表的な理論を簡潔にかつ批評的に解説している。第3部では、日本および東洋の文化的伝統に根ざした仮説理論の構築と提示を試みており、全体として今後の進むべき研究の方向性を模索した理論概説書となっている。

 この機会に、当研究所が行ってきた一連の共同研究プロジェクトの成旺を少し振り返ってみたい。その最初としては、1987年刊行の『異文化コミュニケーション─新・国際人への条件』(有斐閣)がある。これは、当分野の日本人研究者による最初の本格的な著作となり、1996年には改訂版が出た(日本コミュニケーション学会「学会賞」受賞)。その後、やや専門的な色頃のある上記の『異文化コミュニケーション─新・国際人への条件』のいわば副読本として、1990年には『異文化コミュニケーション・キーワード』(有斐閣)が出版された。この時期には、異文化コミュニケーションは、相当数の大学や短大においてカリキュラムの中に科目として取り入れられるようになったが、これがさらに分野あるいは学問領域として研究されるためには、ある程度の領域設定がなされなければならない。その第1歩として、当研究所は「異文化コミュニケーション・キーワードの体系化に関する共同研究ブロジェクト」を1994年に発足させた。その結旺できたのが、『異文化コミュニケーション・キーワード集』(異文化コミュニケーション研究所報告書、1996年)である。この成旺に基づき、当分野についてより広範な問題を取り上げ、それらを網羅した概説書『異文化コミュニケーション・ハンドブック』(有斐閣)が1997年に刊行されたが、それには総勢26名という多くの執筆者が参画した。

 混迷の時代における暗中模索の中から新しい学問分野あるいは領域が生まれる時には、いくつかの壁に当たりながらも、どこかで新鮮な息吹が感じられるものである。当研究所主催の共同研究プロジェクトは、今後異文化コミュニケーション研究の方法論の開発やアジアを中心とした地域研究、異文化交流史などとの関係を深めながら新しい課題に向うことが求められていると信ずるものである。

(ニューズレター『異文化コミュニケーション39号』より)

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