序文
この研究プロジェクトは、神田外語大学教員有志によってはじめられたものである。研究を立ちあげてすでに
4年ほどの時間が経過したが、教員それぞれが「教育と研究」に多忙の日々に追われ、メンバーの当研究についての問題意識の共有化は十分になされているとはいいがたく、したがって調査研究仮説設定もあいまいなままに今日にいたっているのが現状である。
しかし、研究というものは、本来研究者の自由な研究を担保してすすめられるものであり、性急な意思統一はかえって研究者の研究意欲を削ぐことになりかねないので、それなりの準備期間が必要であったことは、言い訳かもしれないが、関係者にご了解をいただきたいと思う次第である。
今回の中間報告書は、ベトナム、中国、台湾、韓国、そして日本のいわゆる東アジア地域の家族研究業績の収集と整理、それを概括するコメントレポートからなっている。この作業は、簡単なようでいて困難な問題をいくつかもっている。家族といっても、そのどの側面をカバーするかで収集範囲は莫大なものとなりえるし、代表的文献にとどめれば単に概論的研究文献にすぎなくなるという問題も生じる。一口に家族といっても、家族制度の歴史的変遷から近・現代の家族問題の病理現象(たとえば家族崩壊など)まで、その範囲と奥行きはほぼ無限といってもいいほどだ。どの側面に研究の関心を合わせるか、その絞込みは難しい。対象国・地域ごとに、近代化の開始時期や制度的特性について、共通性よりはむしろ差異性のほうが目立つし、またそうした多様性を捨象しないことの重要性も、われわれとしては尊重したいと考えた。
もう一方で、この地域の研究を「近代化による家族変動」という切り口で行うという調査研究の問題意識に立てば、この東アジア地域を全体としてカバーできる「調査研究仮説」の設定、換言すれば調査研究の共通尺度の策定が必要である。先にも述べた当研究プロジェクトメンバーの研究関心は、それぞれに異なるので、ベクトル合わせは必要であると認識しつつも調査研究仮説の策定は困難であることも、メンバーはともに理解をしている。まさに、このとりあえずの中間報告書の取りまとめは、次の研究ステージへの踊り場としての性格をもったものである。そうした了解の下に、ここに取りまとめた報告書は、われわれにとっては次の研究にすすむための基礎材料となるものである。
以上のことを前提にして各担当の研究ノートから共通していえることがいくつかある。その
1つは、家族の近代化、いいかえれば社会の近代化にともなう家族変動には、やはり伝統的世代家族から核家族・「近代家族」への移行、そして女性の社会進出、それにともなう近代家族の「揺らぎ」(少子高齢化・離婚率の増大など)が、それぞれの地域による若干の差異はあれども、共通にみいだされることだ。他方において、地域固有の問題性も指摘される。それは、ジェンダー問題と交錯するのだが、儒教・家父長制などの伝統的価値に対抗する「自由・民主・合理性」などの近代的価値との社会的葛藤が、まさにそれぞれの地域固有の問題性を孕んでいることである。換言すれば、近代化という社会学的文化(文明)の側面では共通現象が、文化人類学的文化(狭義の文化)の面では差異性が明確にみられるのである。当然の知見であるということであろうか。
本学神田外語大学が「国際研究international
studies」を教学の旗印に掲げていることをふまえ、歩みは遅々としているが、われわれとしては息永く、この研究を推し進めていきたいという決意を表わし、この報告書を公表する次第である。関係者各位の叱正、助言をいただければ、幸甚である。
2005年 3月
研究会メンバー&執筆担当(順不同)
ベトナム:岩井美佐紀(国際言語文化学科)
台湾:花澤聖子(中国語学科)
中国:晨光(異文化コミュニケーション研究所)
韓国:林史樹(韓国語学科)
日本:加藤譲治(一般教育)