異文化コミュニケーション研究所
    Intercultural Communication Institute

 
第53回 異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ


タイトル

Hiroshima: the News that Never Was.
How information is censored in times of crisis.

講  師

シルビア・ゴンザレス 氏 (神田外語大学 スペイン語学科 准教授)

司  会

ギブソン松井佳子 (本学英米語学科教授・本研究所副所長)

日  時

2007年11月27日(火) 17:30〜19:30 (開場:17:00〜)

場  所

ミレニアムハウス
 講師からのメッセージ
 The atomic bombing of Hiroshima should have produced the most significant news story in the 20th and Century. But censorship and manipulation interfered in the information process. Manipulation from powerful factions affected and still influences news media reporting many serious conflicts. What are the meanings of silence after Hiroshima?
 講師紹介
 Associate Professor in the KUIS Spanish Department. PhD in Japanese History (El Colegio de Mexico). Worked for more than 20 years as a journalist on press, radio and TV. Foreign correspondent in the United States, France, Spain, Venezuela and Japan. She has lectured and published books on problems of Communication, Peace and Human Rights.
 講演会報告 (奥島美夏、異文化コミュニケーション研究所)

 第50回に続き、広島の原爆投下をめぐる諸政府や報道の言説とその背景について、メキシコで日本近代史を専攻し新聞・ラジオなどで20年間ジャーナリストを務めた本学教員ゴンザレス氏から報告を受けた。
 原爆は20世紀最大のニュースの1つであった。だが、ニュースとはその中に含まれるメッセージや構成要素が何を受けとる側に喚起するかによって決まり、世論をもある程度左右してしまう。また、ニュースを報道するまでの過程で何段階もの情報操作が行われ、それを通過したものだけが一般社会に届けられているのが実情だ。この本質的な問題のために、戦勝国アメリカはもちろん敗戦国である日本でも、原爆関係の報道は圧力をかけられ、隠されたり歪曲されたりした後、今日に至るまで議論が続いているのである。
 ゴンザレス氏の研究調査によれば、アメリカでの原爆投下の準備は入念に計画されたもので、「日本に投下を予告し、日本はそれに回答せず黙殺した」という一般的言説に反して、投下は7月25日に関係機関で正式に承認を受け、投下後にビラをばら撒いていた。また、「投下しなければ戦争は終わらなかった」という言説に対しても、米軍は1944年頃から日本軍が降伏を模索しているのをよく知っていたという。さらに、原爆の標的だった広島の軍事工場の破壊は、実際は市外中心地に投下されたため12%程にとどまり、その関係者も投下の翌日亡くなった11万人のうち2万人に過ぎなかった。
 60年経った今日、ようやく原爆の主目的はむしろ爆撃経験のない広島への心理的効果と、迫りくるソ連の脅威に対するデモンストレーションにあったのだとみなされるようになった。当時はアメリカでは投下直前に原爆が完成したことが公表されて話題になり、政治家も正当化する発言をしたりと、投下自体とその被害状況についてはほとんど沈黙していた。日本でも、投下直後に現地ジャーナリストなどが送った報告を軍の検閲が抑制し、敗戦後はGHQも原爆に関するニュースを厳しく検閲していた。このような検閲やプロパガンダのフィルターを何重にも通して、原爆のニュースは不正確になり、多くのフィクションすら生み出してきたのである。また、いずれの国にしても医療情報が不足していたために、投下後に十分対応ができず犠牲者を増やしたといわれる。
 その後、ジャーナリズムは技術面で格段に進歩したが、政治的圧力による制約や、「客観性」の基点をどこに定めるのかという難しさは依然として課題となっている。核外交やテロ事件など類似の問題が今日も繰り返される中、広島の原爆から得た教訓をどのように活かせるかが問われているのである。
 


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