異文化コミュニケーション研究所
    Intercultural Communication Institute

 
第36回 異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ


タイトル

国際舞台に通じるキャリアの形成とコミュニケーションの課題
−世界銀行の最前線から−

講  師

泉 泰雄 氏 (世界銀行 人事局プログラム・マネージャー)

司  会

戸門 一衛 (本学国際コミュニケーション学科教授)

日  時

2004年10月7日(木) 17:30〜19:30

場  所

ミレニアムハウス

会場整理費

 300円(当日払い)
 講師紹介
 神戸大学大学院国際協力研究科客員教授。ほかに、日本ではFRI & Associates (就職・キャリアを考えるNPO)戦略アドバイザー、ワシントンではDC開発フォーラム幹事、Friday World(開発援助課題・キャリア形成研究グループ)主宰者を務める。1998年から2004年6月までは世界銀行旧ソ連東欧地域の産業・金融部門で開発・支援業務セクター・マネージャー。経済・社会両面でバランスのとれた開発・発展を目指す。1991-1994年は欧州復興開発銀行(EBRD)、それ以前は日本興業銀行に勤務。パリ大学経営大学院(MBA)、国際基督教大学教養学部(BA)卒業。英仏両国語に堪能。
 講演会報告 (奥島美夏、異文化コミュニケーション研究所)

 グローバル化の進展に伴い、政治・経済・社会のすべてにわたって国際的な相互依存が深まるにつれて、必然的に異なる文化や価値観を持つ人々の触れあいの場も増える。それは同時に、相互理解のいっそうの深化が求められ、共通意志の形成に向けたコミュニケーションがより重要となったことを意味している。こうした国際社会に対応できるキャリアの形成やコミュニケーション能力の開発に何が必要なのかを、欧米在勤通算18年の泉泰雄氏は、現職の世界銀行(在ワシントンDC)という国際舞台最前線からみた視点を報告した。講師は日本の大学で教鞭をとるかたわらFRI & Associates(就職・キャリアを考えるNPO)の戦略アドバイザーも務め、ワシントンではDC開発フォーラムの幹事やFriday World(開発援助課題・キャリア形成研究グループ)主宰者も務めるなどと、精力的に活動している。
 第2次大戦後の混乱から先進諸国が脱却し、また独立した新興諸国も軌道に乗り始めた1960年代、世界の所得格差の開きと貧困問題が浮上し、国際復興開発銀行(IBRD)、国際金融公社(IFC)、国際開発協会(IDA)、多数国間投資保証機関(MIGA)、国際投資紛争解決センター(ICSID)が合併して世界銀行グループを創立した。現在は184カ国が加盟し、世界100カ国以上の支部とスタッフ約9,300人を抱える大所帯である。内部は開発事業、プログラム、財務、共同事業、福祉サービスなどの諸業務部門に分かれ、また東アジア、南アジア、アフリカ、南米とカリブ諸島などの地域に分かれた多数のセクションがある。借入国を支援するビジネスプラン「国別援助戦略(CAS)」など、プロジェクト1件に対して1班3、4人〜20名以上が起案から実施までを1、2年から数年かけて遂行する。
 こうしたおびただしい機構を統合した超多忙な職場でキャ リアを築いてゆくための要領として、講師はさまざまな国籍のスタッフや取引相手の文化的相違を十分認識し、ひろい展望に立ってものを考えることと、積極的に行動して目にみえる貢献や発言で実績を積み重ねることが重要であると指摘する。とくにコミュニケーション面からいえば、「相手に対して説得的であること(persuasive)」が大切だ。たとえば、欧米文化では誤解がなるべく少ないように沢山書いたり、自分のスタンスや意見をその時々ではっきり提示し、状況が変化したり理解を深めるたびに意見が変わることを恐れない。こうしたコミュニケーションの在り方にかならずしも慣れていない日本人は、できるだけ早く自分のスタンスを作っておき、知見を広げるにつれて更新してゆくのが望ましいだろう。
 ここからもわかるように、今日の世銀はスタッフ・事業ともに多国籍化・多文化化しているとはいえ、大半はいまも欧米系のスタッフであり、日本人はまだまだ少ない。こうした事情もあって、講師は日本人など少数派の数を増やそうと人事部門へ入ったという。外国語を専攻し、いずれは国際社会で活用してみたいと考えている学生たちには、大きな希望を与える話であった。

【参考】
Friday World: www.fridayworld.org/ZUMI_Yasuo.htm
 


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