タイトル |
(シリーズ:多文化共生の未来とジレンマ)
ボーダレス時代における日本のグローカリゼーション
−外国人集住都市・浜松の事例を中心に− |
講 師 |
池上重弘氏 (静岡文化芸術大学 助教授) |
司 会 |
奥島美夏 (本研究所専任講師) |
日 時 |
2004年6月2日(水) 18:00〜20:00 |
場 所 |
ミレニアムハウス |
会場整理費 |
300円(当日払い) |
講師紹介
1963年、北海道札幌市生まれ。北海道大学大学院修了後、北海道大学文学部助手、静岡県立大学短大部講師を経て、2001年より静岡文化芸術大学文化政策学部(国際文化学科)助教授。専攻は文化人類学。インドネシア・スマトラ島を故地とするトバ・バタック人社会の葬送慣行をめぐる文化人類学的研究と並んで、1996年より外国人住民の増加に伴う地域社会の国際化をめぐる研究にも従事。その研究成果の一部をまとめた『ブラジル人と国際化する地域社会−居住・教育・医療−』(編著)を2001年に明石書店より出版。最近では、多文化主義の先進国オーストラリアにも関心を広げ、インドネシア人コミュニティに焦点を当てた現地調査を進めている。 |
講演会報告 (奥島美夏、異文化コミュニケーション研究所)
グローバリゼーションの時代、人・モノ・金・情報などの流れが地球規模でめまぐるしく行き来する中で、その受け入れ社会となってきた日本は各地で急激な変貌、すなわち多国籍化・多文化化をとげている。全国有数の工業都市・浜松(静岡県)で日系ブラジル人その他の研究・支援活動をおこなう池上重弘氏は、グローバルとローカルを併せた「グローカリゼーション」という造語(前川2004)をキーワードとして、地域社会でおこっている現状と問題点を明らかにした。
人口約60万人の浜松市は、自動車や輸送機器関連の下請けなど、他の中部地域の主要都市と同様に製造業で栄える工業都市であり、その末端労働者として日系ブラジル人をはじめとする外国人も多数暮らしている。彼らは人材派遣会社などを介して短期契約を更新しながら転々とする不安定で周辺的な労働者であり、バブル経済の崩壊によって直接雇用から間接雇用へと大きく傾いた日本の「景気調整のためのバッファ(緩衝)要員」といえる。とくに1990年の入管法改正以来、就労制限のない日系人が南米諸国から次々とやってきて、浜松の在留外国人登録者数は15年間で4千人弱から約6倍の2万3千人以上へと急増した。また90年代末には、エンターテイナーや日本人配偶者であるフィリピン人、研修生としての中国人やインドネシア人なども多くなってきた。
それにつれて、水面下では社会的セグリゲーションも進行する。こうした外国人労働者は、間接雇用構造の中で一般の日本人とはほとんど接点がないまま固定化され、派遣会社などが用意するアパートや宿舎、あるいは比較的安くて広い公営住宅にかたまって住んでいる。他方、市内には外国人相手に雑貨やメディアを販売するエスニック・ショップや、外国語礼拝をおこなう宗教場などが出現し、ますます彼らは外国人同士の交流とネットワークに依存する。こうして、外国人の集住する界隈はいわゆる「エスニック・コミュニティ」の様相を呈するようになった。
こうした現状を改善するため、地域社会では行政、NPO、学生グループなどさまざまな層が問題にとりくんできた。自治体は他国語に対応するスタッフ陣をそろえて外国人支援の各種事業を、NPOや学生ボランティアもそれぞれ日本語学習や医療の相談を行なったり交流センターを開設した。さらに、同種の問題をかかえる中部地方の近隣自治体が協力して、2001年から「外国人集住都市会議」を毎年開催し、県や国レベルのとりくみを促すために各方面に働きかけている。しかし、これら地域内外の行政・市民の連帯において、肝心の外国人自身はいまだ「支援の対象」にとどまり、なかなか「参加の主体」へと昇格していないという問題も残されている。
先進諸国が急速に少子化・高齢化する現在、外国人施策は受け入れ社会にとって重要なエンパワーメントとなる。そして、外国人にとって住みやすい社会は誰にとっても住みやすい社会であるはずだ。この「ユニバーサル・デザイン」の視点が、ボーダレス時代の日本社会の未来像を構想する上では欠かせないのである。
【参考】
池上重弘(編著)2001『ブラジル人と国際化する地域社会――居住・教育・医療』明石書店
前川啓治2004『グローカリゼーションの人類学――国際文化・開発・移民』新曜社 |