異文化コミュニケーション研究所
    Intercultural Communication Institute

 
 2002年日本コミュニケーション研究者会議参加報告


2002年5月18日(土)・19日(日)
於:南山大学(名古屋)

桝本智子、異文化コミュニケーション研究所
 

 
Masumoto, Tomoko (Researcher, Intercultural Communication Institute)
The 14th annual conference was held at Nanzan University in Nagoya, May 18 and 19, 2002. The main theme of this conference was "Communication in Asia." Two keyonote speakers were invited on the first day: Dr. Taeseop Lim of Kwangwoon University in Korea and Dr. Jung-huel Becky Yeh of Shih Hsin University in Taiwan. On the second day, there were three individual research presentations by Professor Yoko Nadamitsu, Professor Dan Molden, and Professor Satoshi Miyahara. Each session was followed by enthusiastic discussion. In the short history of intercultural communication studies, so much attention has been given to comparing and contrasting "West" (especially the U.S.) and "East," (especially Japan) that distinctions among "Asian cultures" have been ignored or minimized, and, perhaps, identified differences have been emphasized. Both keynote speakers and presenters provided insightful research. The conference succeeded in identifying significant implications for new directions and new research possibilities in the study of communication in Asia.

今年で14回目を迎える日本コミュニケーション研究者会議は、5月18日(土)と19日(日)の両日にわたって、名古屋の南山大学で開催された。本年度のテーマは、「アジアのコミュニケーション」で、1日目は基調講演、研究発表という形式で行われた。この研究者会議の特徴として、発表、質疑応答ともに十分な時間を取っていることである。また、前もって発表者の論文が配布されているために、奥深いディスカッションが行われることが挙げられる。

第一日目はKuwangwoon UniversityのTaeseop Lim 氏 が "Globe, Asia, and Korea; Characterizing Koreans' psychology of communication"、Shih Hsin University のJung−huel Becky Yeh氏 が“Reviewing current inter/cross-cultural issues, problems and academic status in Taiwan society" のトピックでそれぞれ基調講演を行った。

まず、Kuwangwoon UniversityのTaeseop Lim 氏は、二極的に東洋対西洋という構図で使われてきた従来の概念では文化固有の概念が無視されがちであることを指摘した。そして、深い視点から韓国の例を用いて説明した。従来の概念では韓国と日本は同カテゴリーに含められてしまいがちであった。特に、韓国のコミュニケーション行動はまだ十分に知られていない。いくつかの固有の概念を挙げながら、今まで大雑把に括られていた韓国と日本、または、中国との違いをユーモアを交えながら説明した。質疑応答の中で、同じ言葉でも韓国と日本とでは違った意味を持つこと(例えば「友人」)が認識され、活発な討論と今後、さらに文化固有のコミュニケーション行動への認識を広めるための研究の重要性が提唱された。

次に、Shih Hsin University のJung−huel Becky Yeh氏は台湾における人々のアイデンティティー、国語、職業的階層、教育等、様々な角度から台湾の現状について紹介をした。中でも歴史的な社会変化の影響を踏まえながら、世代別にみた中国人(Mainland Chinese)と台湾人(Taiwanese)のアイデンティティに関する調査結果は興味深いものがあった。台湾の伝統的言語を話す人々を見下すような風潮があったことから、伝統的な言語が消えつつあったが、現在では保存していこうという運動とともに回復しつつある。しかし、自文化を誇り、社会的にも差別を無くしていくには、4,5世代待たなければならないという指摘もあった。

第2日目は、3人の研究者による、個人研究の発表が行われた。今回のテーマに基づき、まず、城西国際大学の灘光洋子氏("East meets East: How Chinese perceive and interpret Japanese communicative behaviors")は、中国人からみた日本人のコミュニケーション行動に関する調査結果を報告した。Individualism/Collectivism, High-context/Low-contextにおいては、個々の文化特有のコミュニケーション行動が無視されがちであるが、この研究では聞き取り調査を用い、より詳しい観察、分析を試みている。

次に愛知淑徳大学のDan Molden氏(“Losing face: The lack of political activity by Japanese-Americans")は、アメリカ合衆国における日系アメリカ人の政治的なコミュニケーション活動について検証している。第二次世界大戦中における日系人収容所問題をはじめ政府に問うべき問題は多々あるにもかかわらず、アフリカ系アメリカ人やヒスパニック系アメリカ人に比べると、特に、日系一世からの政治的な発言が少ない。日系人の合衆国社会での地位とアイデンティティの観点から考察している。
最後に、西南学院大学の宮原哲氏(「日韓対人コミュニケーション比較研究の傾向」)は、自らが行った量的分析を主に用いた過去の研究を批判的に分析しながら比較文化の対人コミュニケーション研究について述べた。この発表では、前日の基調講演、昨年のコミュニケーション研究方法における議論とつながり、研究方法の検証へと議論が展開された。量的研究の見直しや、Emic(ある一定の文化でのみ意味をなす行動や概念)を明らかにしていくことの重要性を提唱している。

両日の各セッションの後には、活発な意見交換がなされた。今回の会議では、西洋で発達してきた概念を当てはめてきた従来の研究の成果を認めながらも、今後、emic的なアプローチを用いた研究を行い発表していく重要性が強調された。今回のテーマである「アジアのコミュニケーション」に基づいた基調講演、研究発表ともに示唆に富むものであり、有意義な会議であった。


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