大学院

人間の言語知識と運用能力の解明


 
人間言語はヒトという種に固有のものです。この、人間を特徴づける「人間言語」とは何かという問いに対する答えを、言語科学は追究しつづけています。そして、この営みは、究極的には、「人間とは何か」という、私たちにとって最も重要な課題への一つのアプローチでもあります。それだからこそ、言語科学は、人間研究の土台を支える最も基本的で、かつ重要な学問領域として位置付けられるのです。 
 人間が言語を習得し、また自在に駆使する能力は、「言語知識」とこれを創造的に使用する「言語運用」の二つの面から成り立っています。言語知識に関しては、すべての人間言語に普遍的に見られる特性と、英語や日本語といった個別言語に特有の現象、この双方を体系的に説明する作業が、生成文法研究を中心に着実に行われ、成果をあげています。言語学・英語学・日本語学は、具体的な言語事象の記述・観察を通して実証的にこうした理論にアプローチし、言語の構造やしくみの解明をめざしています。

 言語知識が言語の骨格だとすると、言語運用はその肉付けともいえるものです。メッセージの伝達と解釈プロセスの解明、表現法や語用的記述の充実、異なった言語間に見られる社会・文化や思考様式の相違と言語運用の関わりなどの体系的考察は、言語教育や言語コミュニケーション研究の基盤となります


コミュニケーション能力重視の言語教育に向けて


 
近年、社会のグローバル化に伴い、コミュニケーション運用能力を伴った第二、第三言語の習得が求められています。そして、この要請にこたえるには、その習得を促進させる効果的な言語教育の創造が急務です。
 この、今後創造されるべき言語教育には、上で述べた「言語知識」や「言語運用」に関する研究の知見が有益です。ことに成人の場合、知識の習得と運用が同時に進行するという特徴をもっています。ですから、教室内言語学習においては、目標言語に関する知識の体系的導入が有効です。さらに、母語との関係では、対照言語学的知見、言語を取り巻く文化・社会環境や、コミュニケーション様式の相違に関する体系的記述の活用等が求められます。
 言語の習得には、人間のさまざまな認知活動が集約されています。それだからこそ、言語教育においては、こういった活動を総合的に捉えると同時に、各側面を独立させて考察することが重要です。このような言語科学的視点と資質が、これからの言語教育に携わる人に求められているのです。